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戦争の人間像
岡田誠三とジェームス・ベンソン 日本人従軍記者と宣教師捕虜との出会い

従軍記者だった岡田は、オーエン・スタンレー山脈からの帰還後、、イギリス人宣教師のジェームス・ベンソンに出会った。日本軍がゴナに上陸した際、ベンソンは英国国教会派の宣教師としてそこで働いていた。彼は日本軍によって捕らえられた後、戦争捕虜としてサナナンダで収容されていたのだった。岡田は英語が流暢で、ベンソンと難なく話をすることができた。ベンソンは、1957年に出版された彼の手記、『囚人の基地と帰還』(Prisoner’s Base and Home Again)の中で、岡田との会話を通して彼の戦争感を知り驚いたと記述している。

岡田と話をし始めて間もない頃、予想外に「日本が戦争に勝つのは不可能だと思う。それに、もし日本が勝てば、世界にとってどんなにひどいことになるか考えても見てください!」と彼が言った。 私は彼をどれだけ信用できるかどうかわからなかったので、用心深く答えた。彼はそれに気づき、次のように言った。「私の言ったことは本当の気持ちです。私は秘密警察のスパイではありません。私は正直な男です。軍国主義のすべてが嫌いな作家なのです。軍国主義はなくすべきです。」

近くに憲兵がいるのに、大きな声で軍国主義に対する嫌悪を口にする岡田のことを、ベンソンはかえって気遣った。ベンソンは次のように書いている。

「でもそんなことを言っているのを、もし憲兵が聞きつけたらどうするのですか?」ひとさし指で大きく首を切るまねをしながら、岡田は答えた。「こうなるでしょう。でも彼らには聞こえないようにいつも注意をしているから。一番腹が立つのは、自分が考えていることを書くことができないことです。でも戦争が終わったら、どれだけ書くか見ていてください。」

その後、ベンソンはラバウルの憲兵隊刑務所に移され、1942年12月に再び岡田が面会に訪れた。岡田はベンソンが身体を洗えるように憲兵隊と交渉し、タオルと石鹸と歯ブラシを彼に差し入れた。ベンソンは岡田のやさしさがうれしかった。そして、もし戦争が終わった後生きていれば、いつか連絡を取り合おうと誓い合った。

1946年3月にGHQを通して、ベンソンから一通の手紙を岡田は受け取った。それまでに岡田は、『ニューギニア山岳戦』と題された短編小説で、1944年に直木賞を受賞していた。これは南海支隊に従軍してポートモレスビー攻撃に参加をした経験を基にして書かれた作品である。しかし、このような有名な賞を受賞したにもかかわらず、発表された作品は元の作品とは違っていると岡田は主張した。というのも、支隊の運命的な退却を取り扱った最後の章は、検閲官によって割愛され、出版されなかったからである。

オーストラリア戦争記念館の個人資料コレクションに所蔵されているタイプ打ちの原稿は、岡田の作品『失われた部隊』の英語訳である。この作品は月刊誌『文芸春秋』に発表されたものであるが、それにベンソンが前書きと後書きを書き加えた。(AWM MSS0732) 同じファイルに含まれた記録は、この原稿を英語で出版する試みがなされたことを記している。残念ながら英語版出版は実現しなかったが、原稿の内容は、日本人ジャーナリストとイギリス人宣教師が、戦争の真っ最中にもかかわらず、サナナンダとラバウルにおいて人間同士の意味のあるつながりを持った証となっている。

田村恵子記

参考資料
James Benson, Prisoner’s base and home again, London: Robert Hale, 1957, p. 30.
岡田誠三『失われた部隊』英語訳。AWM MSS0732.

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南海支隊の後退
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