オーストラリア戦争記念館の豪日研究プロジェクト 「讃仰・四勇士の純忠–これぞ大義に徹した武士道」菊池寛手記
Australian and Japanese attitudes to the war
菊池寛
(新聞解説)シドニーを強襲した海軍特殊潜航艇乗員四勇士の英霊は九日横浜に入港する鎌倉丸で送還されるがこの盡忠無比のわが武士道精神にたいしては盟邦ドイツではかねてから研究をつづけ科挙の力を以てしても解決し損ざるものとしている、さて武士道とは何か、武士道精神研究の権威菊池寛氏は次の一文を本社に寄せた。
ドイツの圧倒的勝利の裏には三つの理由があるといはれている。第一は国防国家としての体制の完備。第二は重工業の発達、最後にナチス精神の優秀さである。私はこのナチス精神と日本精神を比較して見る時、日本精神のほうがはるかに優れていると思ふ。ヒットラー氏もその点大いに日本精神を称揚し、「日本精神は武士道だ」といっている。日本精神をこう簡単に定義されては困るが、日本精神の七八分までは武士道ではないかと思ふ。特にわが国が明治以来あらゆる戦争に赫々たる勝利を収めているのは武士道精神が軍人精神の中に溶け込んでいるためであり、濠州のシドニー湾強襲のわが特殊潜航艇の勇士の武士道精神が濠州の為政者を委託感激せしめて、その遺骨を丁重に日本に送り返してくれた態度も、日本武士道に感激せる結果であると思われる。
そこで敵国人の胸まで打った日本武士道について私は考えて見たいと思う。(以下略)
菊池寛は武士道と死の観念を関連付けながらも、維新の勤皇の志士以降、大義のための死の中に、当時の軍隊の中に受け継がれている武士道を見ると主張している。
更に、戦場で使用される武器の性能が上がるにつれて、戦死の可能性も高くなったと指摘し、今の兵士たちが晒される危険性は昔の戦場における危険性と比べた場合、その百倍、あるいは千倍であると述べた。最後に、ミュアヘッド・グールド少将と同じように、死ぬ可能性が非常に高い任務を遂行するに当たって、「その決心を長い間持ち続けるということは確固たる信念と同時に非常なる勇気の発露だと考えられ、敬仰に堪えないものがある」と結んでいる。
Printed on 11/05/2024 10:29:47 PM